「音と音楽」
独学で曲を作り始めた90年代中頃、僕はブラックミュージックに没頭していた。80年代に席巻したバブリーで煌びやかな香りが残るR&Bシーンに、カウンターパンチを喰らわすかのように出現し、新しくも原点回帰なスタイルでムーブメントを起こした彼らは、”ネオソウル”(当時はニュークラシックソウル)と呼ばれた。なかでも、ディアンジェロやエリック・ベネイ、トニー・トニー・トニー、そしてマックスウェル(のプロデュースをしていたスチュワート・マシューマン=SADEの主軸メンバー)といったアーティスト達のスタイルに、僕は強く影響を受けた。いわば、シンガーソングライターとして「こうありたい」を与えてくれたのが、彼らの存在だった。
「音と音楽」、その二つには密接な関係があるが、必ずしもイコールではない。心地よい音=音楽でもないし、場合によってはノイズにこそ音楽的な豊かさがあるとも言える。音への愛情はあれど、音楽は特に好きではないという人もいるし、音楽は好きだけど音への拘りは特にないという人もいる。
その視点で考えたとき、有難いことに自分は、どの時代においても音と音楽の両方で「堪らない」という体験をしてきた。この先も、そんな素晴らしい体験を積み重ね、音の旅を続けていきたい。
さて、今年は、もう一度あの時のようにいろんな楽器に触れて、自由に制作に向かおうと思う。今の自分にとっての「堪らない」を追い求めて。