エレクトリックという深淵
あらたな10年のスタートに、自分は何に挑戦したいのか考えていた。そこで浮かんだのが”エレクトリック”というキーワード。アコースティックなライヴが基本スタイルとなっていた自分にとって、エレクトリックな音作りはある面で原点回帰であり、一方では全く新しいチャレンジでもある。原点回帰という点について語れば、10代後半、シンセサイザーとサンプラー、ターンテーブルというヒップホップ世代サンプリング育ちなルーツがあり、1stアルバムの打ち込みトラックはほぼセルフプロデュースで制作していたからだ。ギタ一本でライヴをするスタイルが確立されてからは、音を重ねるコラージュ的な視点での作曲が自ずと減ってしまったこともあり、エレクトリックな要素が少なくなった。ことギターに関して言えば、過去にもエレキは持っていなかったわけではないが、アコギの延長線上でしかない、そんな立ち位置だったため、アコギとはまた別の楽器として扱えるようになるという点で、新しいチャレンジだ。
そんなこんなを考えながら、音の旅を続けているうちに、一本のギターと出会った。ホロウボディ(ボディ内が空洞)で、ブラックフィニッシュにフォルテホール、ピックガードがオフホワイトで、ピックアップのエスカッションは、それまで見たことのない形状をしている。ピックアップも通常のハムバッカーよりも細く、ミニハムが搭載されているようだ。ある二人の海外ギタリストがこのギターを使用しており、どの動画を見ても好みの音がしていた。これは60年代に作られていたギターで、Silvertoneというメーカーが出していたのだった。さらに調べていくと、このメーカー、その当時、GibsonのOEMを担っており、このピックアップは正真正銘Gibsonのミニハムと同じものだということが判明。どうりで音が太いわけだ。これはもう、とにかく触ってみたいと思い、1~2ヶ月は時間をかけて探していたのだが、国内では一向に見当たらない…あとは海外だ。
僕は賭けに出るのか?普段、ギャンブルはしないが、こういう時は迷った挙句、賭けに出る人間だ。それで失敗したことはなくもないが、失敗がまた経験として蓄積されるので、次の賭けに役立ってしまう。だからまた賭けに出てしまうのかもしれない…
Reverb.comというサイトには、世界中から様々な楽器が出品されている。ここで探していたギターをついに見つけたのだった。エレクトリックという深淵に漕ぎ出していくことを、僕はもう既に決断していた。